働く女・2・ずっと一緒にいたい
2002年8月3日彼の行きつけのショットバーへ。
当時お酒が好きで、
わりと飲むほうだったわたしはドライマティーニを注文した。
わたしはいつも中に入ってるオリーブまで食べる女だったがおとなしく飲んでいた。
彼はバーボンを飲んでいた。
彼はあんまり飲むほうではなかった。
それも初めて知った。
わたしはカクテルはドライマティーニしか飲まないので何杯かおかわりをした。
しかし、異様に緊張しているためか酔わなかった。
彼の見せる仕草のひとつひとつがいとおしく感じた。
何を話したのかあんまり覚えていないくらい
緊張していたように思う。
彼はあんまり自分のことを話さなかった。
わたしばかりしゃべっていたように思う。
それまでのわたしは男の顔色をうかがうことなど
全くと言っていいほどなかったのだが、
その日は自分が彼の目にどう映っているか、
自分のことを知ってもらいたい、
とか
とにかく彼によく思われたくて
一生懸命だった。
だんだんと会話も途切れてきた頃、彼は小さな包みをくれて、
「付き合ってくれないか」
といった。
わたしはうれしくて泣いてしまった。
返事がなかなか言えなくて、
彼が笑いながら何度も
「返事は?」
と聞いた。
プレゼントの中身はパールのペンダントだった。
わたしはすぐにそれを着けた。
その夜は一緒に過ごした。
部屋に入ったとたんに抱きしめられた。
「ずっとこうしたかった」
と言われて息を呑むほどうれしかった。
なんでずっと相手にしてくれなかったの?
と聞くと
自分のような男と君みたいな若い子が付き合うのは無理があると思っていた、と答えた。
じゃあどうして誘ったの?
と聞くと
誰かに取られてしまいそうな気がしたから、
と。
あまり自分のことを語らないだけに、
彼の言葉には重みがあった。
わたしよりも真っ直ぐで
真面目で、もっと純な人だと感じた。
好きになった人に抱かれるのが
こんなに幸せだなんて初めて知った。
好きな人に抱きしめられるのは心地いい。
愛されていると感じるのは幸せだ。
わたしはすごく遠回りをしてここまで来た。
自分がされたようにこの人を守りたい。
愛したい。
そんな思いは初めてだった。
しかしまたしても色ボケの日々が始まった。
とにかく会えばする。
いつでもする。
会社では今まで通りで、
付き合っているというそぶりは誰にも見せなかった。
だけど好きな人とする行為は全くイヤじゃない。
何回しても飽きることはない。
むしろ心が落ち着く感じ。
避妊はずっとしていた。
年が明けて、
わたしの実習期間があと二ヶ月で終る。
次の実習地は、以前すんでいた地元の近く。
このままだと離れ離れになってしまう。
離れたらきっとダメになってしまう気がしていた。
一緒にいたい。
引き止めて欲しい。
しかし二人とも言い出せないまま
時間だけは過ぎていく。
二人で色んなところへ行った。
たくさん会った。
会っているのに毎日電話した。
手紙も書いた。
わたしが極度のさみしがりで甘えん坊だという事を
彼はよく知っている。離れたらきっとダメになることは彼も知っていた。
しかしどうにもできない。
結婚はまだしたくない。
しかしもしもプロポーズされれば考えられると思っていたが
彼はなにも言わない。
いっそ妊娠すればいいのに、と何度も思ったが
そんな軽はずみなことは出来なかった。
もうわたしは彼なしでは生きていけないほどになっていて、
全ての精神的支えは彼しかなかった。
そんなわたしを重荷に思ったのか、
それともこんなわたしではいけないと思ったのか
彼は別れを受け入れようとしていた。
一緒にいられるのはあと何日、
と言う事をカレンダーに書いて消していく。
思い出作りをするように
色々な場所に出かける。
泊まりがけで行く事も何回もあった。
別れたらわたしはどうなるのだろう。
どんなふうに生きていくのだろう。
なるべく先のことは考えないようにしながら
彼との残された日々を過ごす。
彼はたくさんのプレゼントをくれた。
香水やアクセサリーやバックや靴や。
わたしがひとつも欲しいと言わないのに色々くれた。
わたしはお返しに料理を作ったり
彼のセーターを編んだり
パジャマを作ってあげたりしていた。
彼からもらった香水で今でも好きなのは
エゴイスト。
彼がつけていたものを貰った。
この香水をつけたままシャワーを浴びる時の、
たちのぼってくる匂いが、初めて会った夜を思い出すから。
彼との思い出はもっとある。
シルバーのフレームの薄い眼鏡。
白いセダン。
長身によく似合うグレーのコート。
28センチの大きな靴。
大きな手のひら。
サンローランのライター。
あんなにも好きで、
忘れられないくらいの思い出がたくさんで、
どうやって別れる事が出来るのだろう。
しかしその日は来てしまう。
朝まで一緒にいた。
出発時間のギリギリまで一緒にいた。
わたしは彼の車の中で、
涙が止まらなくて言いたいことすら言えない。
彼も泣いていた。
こんなに好きならずっと一緒にいようよ。
ここにいろって言ってよ。
なのに言葉が出ない。みつからない。
大きな手を握り締めて泣くだけ。
時間は迫る。
車から降りて、もう一度抱き合った。彼の匂いを忘れないように。
きっともうこの胸に抱かれることはない。
最後にキスして、そのまま何も言わずはなれた。
振り向かないで歩いた。
涙で前が見えない。
だけど戻れない。
一生分くらい泣いた。
わたしも彼も状況に酔うことをせず
恋よりも仕事を選んだ。
あの時振り向いて走り出していれば
何かが変わっていたと思う。
しかしわたしはそうしなかった。
結婚するのは早すぎる。
二人ともそういう思いはあった。
だけどもっと一緒にいたかった。
ただ一緒にいたかった。
ただ、好きだった。
まだ続く。
追記・この上司と付き合い始めるまでに、
遊ぶ男がいながらもその他に数人と付き合っていました。
そういう鬼畜なドロドロ話はここでははぶきましたが
いつか反省の意味もこめて書いてみたいです。
・今日はお気にに何人かの方を入れさせていただきました。
当時お酒が好きで、
わりと飲むほうだったわたしはドライマティーニを注文した。
わたしはいつも中に入ってるオリーブまで食べる女だったがおとなしく飲んでいた。
彼はバーボンを飲んでいた。
彼はあんまり飲むほうではなかった。
それも初めて知った。
わたしはカクテルはドライマティーニしか飲まないので何杯かおかわりをした。
しかし、異様に緊張しているためか酔わなかった。
彼の見せる仕草のひとつひとつがいとおしく感じた。
何を話したのかあんまり覚えていないくらい
緊張していたように思う。
彼はあんまり自分のことを話さなかった。
わたしばかりしゃべっていたように思う。
それまでのわたしは男の顔色をうかがうことなど
全くと言っていいほどなかったのだが、
その日は自分が彼の目にどう映っているか、
自分のことを知ってもらいたい、
とか
とにかく彼によく思われたくて
一生懸命だった。
だんだんと会話も途切れてきた頃、彼は小さな包みをくれて、
「付き合ってくれないか」
といった。
わたしはうれしくて泣いてしまった。
返事がなかなか言えなくて、
彼が笑いながら何度も
「返事は?」
と聞いた。
プレゼントの中身はパールのペンダントだった。
わたしはすぐにそれを着けた。
その夜は一緒に過ごした。
部屋に入ったとたんに抱きしめられた。
「ずっとこうしたかった」
と言われて息を呑むほどうれしかった。
なんでずっと相手にしてくれなかったの?
と聞くと
自分のような男と君みたいな若い子が付き合うのは無理があると思っていた、と答えた。
じゃあどうして誘ったの?
と聞くと
誰かに取られてしまいそうな気がしたから、
と。
あまり自分のことを語らないだけに、
彼の言葉には重みがあった。
わたしよりも真っ直ぐで
真面目で、もっと純な人だと感じた。
好きになった人に抱かれるのが
こんなに幸せだなんて初めて知った。
好きな人に抱きしめられるのは心地いい。
愛されていると感じるのは幸せだ。
わたしはすごく遠回りをしてここまで来た。
自分がされたようにこの人を守りたい。
愛したい。
そんな思いは初めてだった。
しかしまたしても色ボケの日々が始まった。
とにかく会えばする。
いつでもする。
会社では今まで通りで、
付き合っているというそぶりは誰にも見せなかった。
だけど好きな人とする行為は全くイヤじゃない。
何回しても飽きることはない。
むしろ心が落ち着く感じ。
避妊はずっとしていた。
年が明けて、
わたしの実習期間があと二ヶ月で終る。
次の実習地は、以前すんでいた地元の近く。
このままだと離れ離れになってしまう。
離れたらきっとダメになってしまう気がしていた。
一緒にいたい。
引き止めて欲しい。
しかし二人とも言い出せないまま
時間だけは過ぎていく。
二人で色んなところへ行った。
たくさん会った。
会っているのに毎日電話した。
手紙も書いた。
わたしが極度のさみしがりで甘えん坊だという事を
彼はよく知っている。離れたらきっとダメになることは彼も知っていた。
しかしどうにもできない。
結婚はまだしたくない。
しかしもしもプロポーズされれば考えられると思っていたが
彼はなにも言わない。
いっそ妊娠すればいいのに、と何度も思ったが
そんな軽はずみなことは出来なかった。
もうわたしは彼なしでは生きていけないほどになっていて、
全ての精神的支えは彼しかなかった。
そんなわたしを重荷に思ったのか、
それともこんなわたしではいけないと思ったのか
彼は別れを受け入れようとしていた。
一緒にいられるのはあと何日、
と言う事をカレンダーに書いて消していく。
思い出作りをするように
色々な場所に出かける。
泊まりがけで行く事も何回もあった。
別れたらわたしはどうなるのだろう。
どんなふうに生きていくのだろう。
なるべく先のことは考えないようにしながら
彼との残された日々を過ごす。
彼はたくさんのプレゼントをくれた。
香水やアクセサリーやバックや靴や。
わたしがひとつも欲しいと言わないのに色々くれた。
わたしはお返しに料理を作ったり
彼のセーターを編んだり
パジャマを作ってあげたりしていた。
彼からもらった香水で今でも好きなのは
エゴイスト。
彼がつけていたものを貰った。
この香水をつけたままシャワーを浴びる時の、
たちのぼってくる匂いが、初めて会った夜を思い出すから。
彼との思い出はもっとある。
シルバーのフレームの薄い眼鏡。
白いセダン。
長身によく似合うグレーのコート。
28センチの大きな靴。
大きな手のひら。
サンローランのライター。
あんなにも好きで、
忘れられないくらいの思い出がたくさんで、
どうやって別れる事が出来るのだろう。
しかしその日は来てしまう。
朝まで一緒にいた。
出発時間のギリギリまで一緒にいた。
わたしは彼の車の中で、
涙が止まらなくて言いたいことすら言えない。
彼も泣いていた。
こんなに好きならずっと一緒にいようよ。
ここにいろって言ってよ。
なのに言葉が出ない。みつからない。
大きな手を握り締めて泣くだけ。
時間は迫る。
車から降りて、もう一度抱き合った。彼の匂いを忘れないように。
きっともうこの胸に抱かれることはない。
最後にキスして、そのまま何も言わずはなれた。
振り向かないで歩いた。
涙で前が見えない。
だけど戻れない。
一生分くらい泣いた。
わたしも彼も状況に酔うことをせず
恋よりも仕事を選んだ。
あの時振り向いて走り出していれば
何かが変わっていたと思う。
しかしわたしはそうしなかった。
結婚するのは早すぎる。
二人ともそういう思いはあった。
だけどもっと一緒にいたかった。
ただ一緒にいたかった。
ただ、好きだった。
まだ続く。
追記・この上司と付き合い始めるまでに、
遊ぶ男がいながらもその他に数人と付き合っていました。
そういう鬼畜なドロドロ話はここでははぶきましたが
いつか反省の意味もこめて書いてみたいです。
・今日はお気にに何人かの方を入れさせていただきました。
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