四月からわたしは知らない町で暮らすことが決まっていた。
友達のグループの中で地元を離れるのはわたしだけだった。
その夜は友達と朝まで遊ぶ。
時にケンカもしたし、時に男を奪い合ったこともあり、
本当にこんなわたしをよく見捨てずにいてくれたと思いたい友達。
離れるまえになって彼女たちにとても助けられていた自分を知る。
このまま遠くへなんて行かずに、この場所で、
この町で気ままに働いて、
時々遊んで、そんな生活が手に入ったならと思った。
しかしわたしは早く家を出たかった。
あの家にいたくない。
家族の手が届く範囲にいたくない。
遠いところで自分ひとりで生きていきたい。
そういう思いが強かった。

四月、わたしは一人で駅へ。
新幹線と電車とバスと。
同じ市内から一緒に行く人数人と。
知らない町。
知らない人々。
やはり家族がついてこなかったのはわたしだけである。
わたしは一番お金をかけたスーツで入社式に出た。
もうヤンキ―の名残はないと思っていたが
その場にいた誰よりもはっきり言って老けていた(笑)
言い訳をさせてもらえれば・・う〜ん、水っぽかった。
そんな感じ。
周りにいた男の子はみんな子供に見えたし、
こんなまともな会社で友達ができるかどうかもすごく不安だった。
しかし、何処にもこんなオンナはいるもので、
喫煙室で数人の友達が出来た。

寮。
わたしは六つ年上の先輩と同じ部屋。
他人と暮らすのに慣れていたわたしは別に苦しまなかったが
先輩に「一人だけでコーヒーを飲まないで」
といわれ、
「どうしてですか?いいじゃないですか」
と言い返したら機嫌をそこねたらしく、
わりとねちっこいいびりが始まる。
お風呂の時間が遅すぎる、
とか
部屋にいないとか・・・
しかしそれくらい言われること、
わたしには何ともないのだ。
言い返したりは必ずしたが、
それ以外に憂さ晴らしに先輩のいない時に
勝手にCDを聞いたり
写真や本を見たりしていた(オイオイ)

職場でもわりといじめらしきものはあった。
わたしの教育担当の女子職員によくいびられた。
が、それもわたしにはなんともない。
早く仕事を覚えてコイツのミスを発見してやろうという目標が出来る。
幸いわたしは仕事の覚えはよかったため、
出来るようになるといじめも減った。

同期の男の子たち数人とよく遊んでいたけれど
この頃わたしは上司のことを好きになってしまう。
しかし、全く相手にされない。
すさまじく子ども扱いされていた。
いくら迫っても乗ってこない。
電話番号教えてくださいといっても教えてくれない。
笑ってはぐらかす。
しかし彼女はいないらしい。
こういう状況にすごく燃えるたちなので頑張ったのだが、ダメだった・・・

わたしは上司に思いをよせたまま、さみしさのあまり他に彼氏を作ってしまう。

夜の街で知り合ったいい車に乗っている彼。
遊び友達から彼氏へ。
夏も彼と遊んですごした。

あんなに学校は休み勝ちだったくせに、
仕事は絶対休まなかった。
お金が絡むとこうも違うものである(笑)
自分の稼ぎで食っていかなきゃいけないから
それだけシビアになる。
残業も言われれば、もちろん言われなくてもすすんでこなしていた。
休日出勤もする。
それで夜は遊ぶ。
寮の門限は9時。
そんな時間に帰るはずもなく
わたしは無断外泊や門限破りをくり返していた。
(うまくやっていたのでこれは完全にばれなかった)
同室の先輩はもうわたしに何も言わなくなり、
彼氏の話などもわりと気軽に話したりする仲になっていた。
寮の友達とはいつも楽しく過ごした。
毎晩が修学旅行のノリで、あの頃ほんとに楽しかった。
さみしさも心細さも彼女たちのおかげで吹き飛んだ。


遊び半分で付き合っていた彼とは
わりと続いていた。
楽しいけれど
上司のことはいつも気になっていた。
父親を知らない女というのはこういうものなのだろうか。
落ち着いた雰囲気のある年上の男に惹かれる。
なのに付き合うのは自分と同じようなタイプばかり。
いつも相手にしてくれない上司だったけれど、食堂で会えば必ず同じテーブルへ座ったし
社内で見かければ手を振った。

彼の気を引くことなら何でもした。
なのにやっぱり相手にされない・・・・

わたしは遊び半分の彼と半分本気で付き合っていたが、
だんだん会うのがつらくなってきていた。

冬になった。
誕生日が近づいてきていた。
わたしは上司への思いはあるものの
いつも話している調子で
「今月何日、誕生日なんですよ。
19歳になるんです。予定も無いんですよ。彼氏もいないし。なんかくださ〜い」
という。
笑ってはぐらかされ、少し傷ついた。
誕生日には一応の彼氏と会う約束があった。

プレゼントもらってから別れようかと思う自分があさましくもなったが、
このままズルズルと付き合ってもつまらないと思っていた。


しかし、その日、
上司から電話がかかるのである。
声を聞いておどろいた。
そしてその次を聞いてまた驚いた。
会わないか、と。
夜に、寮の近くで待っているから、
出てきてくれないか、と。
わたしらしくなく手が震えた。
声も上ずった。
どうしよう。どうしよう。
泣いてしまうかもしれない。
しかし取り乱すのはおかしい。変だ。
そう思いながら応答する。
しかし泣いてしまった。
うれしくて泣いてしまった。
初めて好きな人から誘われた。ずっと追っていた人から誘われた。


遊び半分の彼氏には、自分から断ることが出来なくて、
友達に頼んで電話してもらう。
ほんとうにごめんなさい。
忘れてください、と。
彼氏はどうにか納得してくれて、
わたしはその夜上司に会いに行くことになる。


一番お気に入りだった白いファーのついたコートを着た。
その下は黒のワンピース。
髪の毛は超真っ直ぐにして、
一生懸命化粧した。
なんどもなんどもカガミを見て、
なんどもなんども深呼吸した。

寮を出て少し歩いた。
角を曲がったあたりに、ずっとあこがれていた白い車があった。
その横に、彼が白い息を吐きながら待っていた。

なんだか泣けてきて、恥ずかしくて、うれしかった。
わたしの今までを棚に上げて言わせてもらえれば、初恋が実ったような気分、とでも言おうか。
声がうわずって胸が激しくどきどきした。
手も震えた。

照れたような彼の顔と助手席のドアをあけてくれた仕草にまたときめいた。

車に乗って、走り出してもわたしは何もいえなくてうつむくしかなかった。
いつものわたしじゃないと言われたが、
ふざけて切り返すことも出来ない。

このまま、このままずっと一緒にいたい。
忘れられない夜が欲しい。

まだ続きます。

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